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ガイドブック MSCB等の発行に関する実務上の留意事項
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こうしたことを背景として、金融庁に設置された「証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会」からの要請を受けて日本証券業協会においても検討が行われ、証券会社がこれらのMSCB等の引受け等を行う際の留意事項や市場の公正性及び既存株主に配慮した商品設計等に関する取扱いが「第三者割当増資等の取扱いに関する規則」(旧「会員におけるMSCB等の取扱いに関する規則」)」として制定されており、東証としても、上場会社代表者各位に対して、「MSCB等の発行及び開示並びに第三者割当増資等の開示に関する要請」(2007年6月25日付東証上会第1号)を行うとともに、また、上場規程上企業行動規範の「遵守すべき事項」として、上場会社に対して、MSCB等を発行する場合には、MSCB等の買受人による転換又は行使を制限するよう措置を講じることを義務付けています。また、上場会社は、企業行動規範に基づき、流通市場の機能又は株主の権利を毀損すると東証が認める行為を行うことが禁止されています。MSCB等を発行する場合には、流通市場の機能又は株主の権利を十分に尊重するようにしてください。なお、MSCB等については、上場会社における転換社債型新株予約権付社債券と関連したスワップ取引の存在に関する情報開示上の問題を踏まえ、MSCB等の定義に該当しない場合でも、一定の要件を満たしMSCB等と同等な効果が生じる場合には、企業行動規範におけるMSCBの発行に関する遵守事項を適用することとし、不適切な資金調達スキームを幅広く排除することととしています。
MSCB等については、上場会社自らが、発行条件及び利用方法次第では株式の希薄化などによって既存株主に不利益をもたらし得る商品性を有するものであることを十分に理解し、発行を行う際には、流通市場への影響及び株主の権利に十分に配慮することと、資金使途や発行条件等について適切な情報開示を行うことの必要性が極めて高いものと考えられます。
上場会社各社におかれては、日本証券業協会の会員証券会社が買い受ける場合であるか否かにかかわらず、MSCB等の発行を行うにあたっては、上場規程上の企業行動規範の遵守事項を遵守したうえで、本留意事項を踏まえた適切な対応を講じるようにしてください。
※ 「MSCB等」とは、CB等であって、CB等に付与又は表章される新株予約権又は取得請求権(以下「新株予約権等」という)の行使に際して払込みをなすべき1株あたりの額が、6か月間に1回を超える頻度で、当該新株予約権等の行使により交付される上場株券等の価格を基準として修正が行われ得る旨の発行条件が付されたものをいう。
【上場規程第410条、施行規則第411条第2項】
※ 「CB等」とは、上場会社が第三者割当により発行する、(1)新株予約権付社債券(同時に募集され、かつ、同時に割り当てられた社債券(金商法第2条第1項第5号に掲げる有価証券又は同法第2条第1項第17号に掲げる有価証券で同項第5号に掲げる有価証券の性質を有するものをいう。)及び新株予約権証券であって、一体で売買するものとして発行されたものを含む。)、(2)新株予約権証券、(3)取得請求権付株券(取得請求権の行使により交付される対価が当該取得請求権付株券の発行者が発行する上場株券等であるものをいう。)をいいます。
【上場規程第410条、施行規則第411条第1項】
〔事前相談〕
MSCB等の発行、開示等にあたっては、事前相談を行うことが必要です。決定・公表予定日の10日前までに、必ず東証の上場会社担当者まで 開示資料(案)をメールにて提出してください(スキームの概要・特徴点、あるいは、発行条件の合理性に関する上場会社としての考え方などの補足資料がある場合には、併せてご送付ください。)。
1.MSCB等の発行に係る遵守事項
上場会社は、MSCB等を発行する場合には、以下に掲げるとおり、MSCB等の買受人による転換又は行使を制限するよう措置を講じることが義務付けられています。
※ 上場会社が発行する有価証券に係る金商法第2条第20項に規定するデリバティブ取引その他の取引が上場会社が発行するCB等と密接不可分の関係であって、かつ、当該CB等及び当該デリバティブ取引その他の取引が一体としてMSCB等と同等の効果を有する場合には、当該CB等及び当該デリバティブ取引その他の取引を一体としてMSCB等とみなして規定が適用されます。
上場会社がMSCB等を発行する場合には、MSCB等の買取契約において、新株予約権等の転換又は行使をしようとする日を含む暦月において行使数量(※)が当該MSCB等の発行の払込日時点における上場株券等の数の10%を超える場合には、以下に掲げる内容を定めることが義務付けられています。
(a)当該10%を超える部分に係る新株予約権等の転換又は行使を行うことができない旨
(b)上場会社は、MSCB等を保有する者による制限超過行使を行わせないこと。
(c)買受人は、制限超過行使を行わないことに同意し、新株予約権等の転換又は行使に当たっては、あらかじめ、上場会社に対し、当該新株予約権等の行使が制限超過行使に該当しないかについて確認を行うこと。
(d)買受人は、当該MSCB等を転売する場合には、あらかじめ転売先となる者に対して、上場会社との間で(b)、(c)の内容及び転売先となる者がさらに第三者に転売する場合にも(b)、(c)の内容を約させること。
(e)上場会社は、転売先となる者との間で、(b)、(c)の内容及び転売先となる者がさらに第三者に転売する場合にも(b)、(c)の内容を約すること。
(※)行使数量は以下のとおり計算するものとします。
・ 当該MSCB等を複数の者が保有している場合は、当該複数の者による新株予約権等の行使数量を合算する。
・ 当該MSCB等以外に当該上場会社が発行する別のMSCB等があり、かつ、行使可能期間が重複する別回号MSCB等がある場合は、当該MSCB等と当該別回号MSCB等の新株予約権等の行使数量を合算する。
・ 上場株券等の数は、① 当該MSCB等の発行の払込日後において株式の分割、併合又は無償割当てが行われた場合、上場株券等の数に公正かつ合理的な調整を行うものとし、② 当該上場会社が当該MSCB等を発行する際に別回号MSCB等がある場合、当該別回号MSCB等の発行の払込日時点における上場株券等の数とし、必要に応じて①の調整を加えたものとします。
※ 買取契約には、以下の期間又は場合には、制限超過行使を行うことができる旨を定めることができます。
・ 対象株券等が上場廃止となる合併、株式交換及び株式移転等が行われることが公表された時から、当該行為がなされた時又は当該合併等がなされないことが公表された時までの間
・ 上場会社に対して公開買付けの公告がなされた時から、当該公開買付けが終了した時又は中止されることが公表された時までの間
・ 取引所金融商品市場において対象株券等が監理銘柄又は整理銘柄に指定された時から当該指定が解除されるまでの間
・ 新株予約権等の行使価額が発行決議日の取引所金融商品市場の売買立会における対象株券等の終値以上の場合
・ 新株予約権等の行使可能期間の最終2か月間(MSCB等の発行時の行使可能期間が2年以上の場合に限る。)
※ 以下に掲げるすべての要件を満たす場合その他東証が適当と認める場合には、上記行使超過に係る制限義務の適用対象外となります。
(a)業務提携又は資本提携のためにMSCB等を発行する場合。
(b)上場会社と買受人との間で対象株券等について取得後6か月以上の保有が約され、その旨が公表される場合。
(c)買受人が、保有を約した期間中において当該対象株券等に係る株券等貸借取引を行わない場合。
(d)買受人が、当該買受け後から当該保有を約した期間が終了するまで当該対象株券等に係る店頭デリバティブ取引を行わないこと。
【上場規程第434条、施行規則第436条】
2.発行にあたっての実務上の留意事項
上場会社は、MSCB等の発行にあたっては、流通市場の機能又は株主の権利の毀損をすることがないよう、十分に留意することが求められます。
留意事項(1)
上場会社は、MSCB等の発行を行う際には、調達資金の使途、新株予約権等(*1)の行使条件の合理性、MSCB等の発行数量及び当該発行に伴う株式の希薄化の合理性等について十分に確認・検討を行ったうえで、流通市場への影響及び株主の権利に十分に配慮すること。
(*1)新株予約権又は取得請求権をいう。
a.商品性等の十分な理解に基づく発行証券の選択等
上場会社自らが、MSCB等の商品性及び発行に伴うメリット・デメリットを十分に理解し、自己資本を拡充していくにあたっての方針との整合性、流通市場への影響及び株主の権利に与える影響を十分に考慮したうえで、資金調達方法としてMSCB等を選択することが求められます。
b.発行スキームに関する既存株主への影響等に配慮した十分な確認・検討
上場会社は、MSCB等の発行を行う際には、上場会社自らが、以下の点について十分に確認・検討を行うことが求められます。
① 調達資金の使途
MSCB等の発行により調達する資金が有効に活用され、結果として将来的な収益の向上、あるいは借入金の返済などを通じたバランスシートの改善に繋がることが見込まれ、既存株主に対して合理的な説明が行えるものであること。
② 新株予約権等の行使条件の合理性
上場会社の財政状態及び経営成績、調達する資金の額及び使途、自社株価のボラティリティ等を総合的に勘案し、上場会社がMSCB等を利用して自己資本を拡充していくにあたっての方針との間の整合性が取れるなど行使価額(修正条項を含む。)、行使期間その他の発行条件が合理的なものであること。
※ 行使価額の修正条項等の発行条件を決定するにあたり、日本証券業協会「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(2010年4月1日制定)を参考に時価の90%相当額を下回らないように設定しさえすれば足りると考えていると見受けられる事例もありますが、本来、買受人が経済的利益を享受できる可能性、発行体の信用リスク、社債の利率を含む発行条件、買受人が負う価格下落リスク、株式の消化可能性その他の様々な観点から十分な検討を行い、総合的に判断することが望まれます。なお、MSCB等の条件決定にあたって、修正後の行使価額が時価の90%相当額を下回る設定をするような場合には、株式の希薄化又は流通市場の機能を毀損への影響が大きいものと一般的に考えられ、企業行動規範の「遵守すべき事項」に掲げる流通市場の機能又は株主の権利の毀損行為の禁止規定に反するものとして公表措置の審査対象となるおそれがありますので、十分に留意してください。
③ MSCB等の発行数量及び当該発行に伴う株式の希薄化の規模の合理性等
行使対象株式が、行使可能期間において急激な株価下落を引き起こさずに円滑に市場で売却できるだけの十分な流動性を有しているとともに、発行しようとするMSCB等の数量及び行使された場合に生じる株式の希薄化の規模が、調達する資金の使途、調達額をはじめ、発行会社の時価総額等を総合的に勘案し、既存株主に対して合理的な説明が行えるものであること。
※ 下方にのみ行使価額の修正が行われるMSCB等又は行使価額の上方修正に過度な制限が付されたMSCB等については、一定の場合(業務提携又は資本提携のために発行する場合であって、新株予約権等の行使により交付される株券について取得後6か月以上の保有が約され、その旨が公表されるとき等)を除き、流通市場の機能影響又は株主の権利への影響が大きいものと一般的に考えられ、企業行動規範の「遵守すべき事項」に掲げる流通市場の機能又は株主の権利の毀損行為の禁止規定に反するおそれがあるものとして公表措置の審査対象となりますので、十分に留意してください。
※ MSCB等の新株予約権等の行使により交付され得る株式数の発行済株式数に占める割合が高い場合は、株式の希薄化又は流通市場の機能への影響が大きいと一般的に考えられ、企業行動規範の「遵守すべき事項」に掲げる流通市場の機能又は株主の権利の毀損行為の禁止規定に反するものとして公表措置の審査対象となります。この場合には、合理的な事業計画が策定され、中期的に株主価値が向上すると見込まれるなど既存株主にとってのメリットについて説明が行えるものであるかについて十分に留意してください。
④ その他、流通市場への影響及び株主の権利に関する重要な事項
イ.財政状態及び経営成績の確認・検討
MSCB等の発行会社において、仮に、MSCB等が株式への転換により自己資本化せず、償還された場合であっても十分に元利金を支払うことができるだけの財政状態とキャッシュ・フローの状況、あるいは元利金を支払うために必要なリファイナンスを実行できるだけの信用力を有していること等について確認・検討を行うことが望まれます。
ロ.株価等の動向の確認・検討
ファイナンス直前の株価や売買高の推移に異常値が見られないものであること等について確認・検討を行うことが望まれます。
ハ.割当先等の確認・検討
割当先について、発行の目的、資金調達方法としてMSCB等による資金調達を選択した理由、上場会社がMSCB等を利用して自己資本を拡充していくにあたっての方針、割当先の保有方針等を踏まえて、割当先として適当な者であること等について確認・検討を行うことが望まれます。また、自社の役員、役員関係者及び大株主と割当先との間における自社株券の貸借に関する契約・合意について把握するよう努めることが求められます。
留意事項(2)
上場会社は、MSCB等の発行を行う際には、当該資金調達方法を選択した理由、調達する資金の使途及び発行条件の合理性等について、わかりやすく具体的な説明を行うこと。
上場会社は、MSCB等の発行を行う際、発行条件及び利用方法次第では、株式の希薄化などにより既存株主に不利益をもたらし得る商品性を有するものであることから、MSCB等を利用することによる企業価値の向上について十分な説明を行うことが重要と考えられます。そのため、募集の目的、資金調達方法としてMSCB等による資金調達を選択することとした理由、調達する資金の額及び使途、最近3年間の業績及びエクイティ・ファイナンスの状況、発行条件の合理性並びに割当先の選定理由等について、わかりやすく具体的な説明を行うことが求められます。
特に、流通市場の機能影響又は株主の権利への影響が大きいものと一般的に考えられるスキームについては、その影響に十分にご留意いただくことが必要ですが、仮に発行する場合においては、株式の希薄化及び株価への影響の観点から既存株主にとってのメリットについて十分な説明を行うことが求められます。
MSCB等を発行する場合の開示事項等の詳細は、「発行する株式、処分する自己株式、発行する新株予約権、処分する自己新株予約権を引き受ける者の募集又は株式、新株予約権の売出し」を参照してください。
3.その他の留意事項
○ MSCB等の転換又は行使の状況に関する開示について
上場会社は、MSCB等を発行している場合には、毎月初に、前月におけるMSCB等の転換又は行使の状況を開示することが義務付けられています(以下「MSCB等の月間行使状況に関する開示」という。)。
また、「① 月初からのMSCB等の転換累計若しくは行使累計が当該MSCB等の発行総額の10%以上となった場合」及び「② さらに同月中における開示後の転換累計若しくは行使累計が当該MSCB等の発行総額の10%以上となった場合」についても、当該転換又は行使の状況を直ちに開示することが義務付けられています(以下この開示のことを「MSCB等の大量行使に関する開示」という。)。
詳細は、「MSCB等の転換又は行使の状況に関する開示」を参照してください。
※ 当該開示義務の対象となるMSCB等についても、上場会社が発行する有価証券に係る金商法第2条第20項に規定するデリバティブ取引その他の取引が上場会社が発行するCB等と密接不可分の関係であって、かつ、当該CB等及び当該デリバティブ取引その他の取引が一体としてMSCB等と同等の効果を有する場合には、当該CB等及び当該デリバティブ取引その他の取引を一体としてMSCB等とみなして規定が適用されます。
- 管理番号 7789